エッセイ


雨の日は時間が止まり

投稿日時:2012/05/03 05:07


 よく降る雨だ。こんな日は雨音を聞きながら物思いに耽るのもいい。
 今では余り覚えている人もいないが、1973年、『追跡』という中村敦夫主演のTVドラマがあった。これはポスト『木枯らし紋次郎』として制作されたもので、中村敦夫演ずる三面記者がいろいろな事件に巻き込まれ特ダネをものにしながらも当事者への良心の呵責によって記事にできない、といった設定のドラマで、15歳の私を虜にした。
 市川崑などが監督するが、唐十郎の監督作品が反社会的だということで未放映となりシリーズ途中で中断されたいわく付きのドラマであったが、主題歌を『木枯らし紋次郎』と同じ、谷川俊太郎・小室等の黄金コンビの作詞・作曲で、上条恒彦が歌っている(現在でも彼のアルバムに収められている)。今でも、雨の日にはこの曲が蘇る。

「昨日は過ぎ去って」(TVドラマ「追跡」のテーマ)
                        作詞:谷川俊太郎 作曲:小室等
昨日はもう過ぎ去って
明日はまだ来ない
硝子戸は風に、風に鳴り
紙屑は破れちぎれる
嘘、涙、怒り
誰もが黙って探り合う
何を、何を追っているのか
擦り切れた靴の下で
地球はもう
地球はもう回らないというのに
遠くから一人の女が
ひたむきに駈けてくるとき
渇いた心に、ちいさな炎が
燃え上がる

昨日はもう過ぎ去って
明日はまだ来ない
コーヒーを飲み
飲み干して
耳慣れた歌に苛立つ
嘘、涙、怒り
誰もが黙って探り合う
何を、何を追っているのか
薄暗い露路の裏で
未来はもう
未来はもう
行き止まりだというのに
向かい合う一人の女の
微笑みを覗き込むとき
渇いた心に、ちいさな痛みが
血を流す

(写真は安藤忠雄設計のランゲン美術館の半地下の展示室からの雨の風景。詳しくは唐変木日録の「幻想写真館」をお尋ねください。)


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