エッセイ


ジョセフ・コーネルの宇宙

投稿日時:2012/04/12 04:26


 MoMAで懐かしき旧友と再会した。その名はJoseph Cornell (1903.12.24-1973.12.29)。クィーンズの自宅に生涯住み続け、連合いもなく、ただひたすらに数十センチ四方の箱の中に自分の宇宙を創り続けた男だ。
 彼が、殆どの人間とのコミュニケーションを拒否し続け家に引き籠り、ひたすらに旧い写真や小物を貯め込み、そしてそれらをモチーフにしたオブジェを創り続けたのには、Robertという弟の存在があったからに違いない。Josephは7歳下のこの知的障害を持った弟と常に行動を共にしていた。
 Joseph Cornellの原点はコラージュにある。収集された旧い印刷物のイラストを切り張りして、唐突で奇怪なイメージを生みだして一世を風靡したアーティストにMax Ernstがいるが、Josph Cornellのデビューは個人的にも彼の影響が強くみられる。
 そして「箱づくり」へ。彼の木箱はその辺りに打ち捨てられたような材質感があるが、実はこれは彼自身によって作られたものだ。何度も塗料を塗ってはヤスリで擦ったり泥を塗ったりしながら「風化」した素材感を創り上げていくのだ。まるで、自分自身がその風化した時間の中に同化していくように。そして、その箱の中に、収集した小物や写真やイラストで立体コラージュを構成していく。彼の頭の中の宇宙にフラッシュしていたのは、子供の頃に見たConey Islandの遊園地や見世物小屋の妖しくて煌びやかな異空間であったに違いない。
 彼との衝撃的な巡り逢いはNYではなく、日本。渡米前の1992年に神奈川県立近代美術館での展覧会であった。NY赴任後ホイットニーで再会を果たし、いつしか彼の虜になっていった。彼のもっともまとまった伝記である、Deborah Solomon の"Utopia Parkway"(1997) の翻訳を真剣に考えた(そして事実、数頁の翻訳を試みた)ほどであった。
 十余年が経ち、願いは叶えられた。『ジョゼフ・コーネル―箱の中のユートピア』という邦題で翻訳が出され多くの日本人に彼を知ってもらえる術が出来た。Joseph Cornellの追い求めた「原点」を見詰め直す機会として欲しい。


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