エッセイ


MoMAという異空間

投稿日時:2012/03/27 05:12


 昨年末も休暇を利用してNYへと旅立った。クリスマス・イブは36時間、元旦は11時間の時差調整付きだ。この季節のNYは最悪だ。ネイティブのニューヨーカーはハワイやフロリダ辺りに逃避行してしまい、NYの街を埋め尽くすのは田舎者の観光客ばかりとなる。NY駐在中は年末の決算で忙しく、クリスマス休暇のアメリカ人を尻目に休日返上で働いたものだが、せめてその敵を打ってやろう、と思ったものの、やはり、この季節のこの街は落ち着かない。
 先ず、それでなくても早口のニューヨーカーが更に早口になる。一年の三分の一を占めると言われるクリスマス商戦に即応しなくてはならないからだ。機関銃のような英語に応えられずニタニタしている典型的な日本人観光客と化してしまうしかない。
 在勤中は毎週のように通ったBlue Noteは例年のようにChris Bottiが甘い旋律でトランペットを奏で、年に数度しか訪れることのないMet Operaでは少し演出の込み過ぎたMadame Butterflyに食傷気味となり、今シーズンは快進撃を続けるNHLのNY Rangersでは、いつの間にかスピリッツを買うのにIDが必要になっていることに驚きつつ、NYを満喫した。
 そんな喧騒の中で、2時間も並んで入ったMoMAは新装になって初めての訪問で、摩天楼の狭間にぽっかりと空いた中庭には何故かほっとさせられた。やはりこの辺りが谷口吉生設計の真骨頂だろう。Ground Zeroに「何も建てない」というコンセプトで臨んだ、安藤忠雄の感覚は、残念ながらニューヨーカーには理解されなかったようだが。
 この歳になると、NYは少し慌しい。やはりヨーロッパの歴史漂わせる瀟洒な街並が懐かしく思われる。



Powered by Flips