幻想写真館5

 「ベルリン・天使の詩」という名画があったが、確かにベルリンの空には天使が住んでいる。ベルリン大聖堂のドームに施された天使の彫刻。270段の階段を昇ると、そこにはベルリンを見渡す絶景が拡がっていた。天使は唄うかわりに、空高くホルンを吹いている。何故か「そして天使は唄う」(「日録の抽斗」参照)というジャズ・ボーカル曲が頭を離れなかった。そういえば、この曲中、トランペットが高らかに弾んだソロを奏でるシーンがあった。それが天使の歌声なのかもしれない。

 NYマンハッタンの夕暮れは何故美しいのだろうか。それは空が摩天楼で切り取られているからだ。その細い隙間から色彩と明暗のグラデーションが堪能でき、スカイラインが美しく見えるのだ、と思う。
 特に夏の夕暮れが美しい。南北に細長いマンハッタンの東西に延びたストリートを、真っ直ぐに陽は落ちていく。ストリートを西に向かって歩くと、まさに沈みゆく赫い夕陽が目に突き刺さる。振り返るととてつもなく長く伸びた自分の影に思わず足が竦む。しかも緯度は高く、夏時間ともなると、終業後の長い夏の宵を満喫できる。ミュージカルへジャズへと刺激を求めて街を彷徨い歩く。それがマンハッタンの夏の夕暮れである。
 翻って、時は真冬。ハウストン・ストリート駅でNラインを降りてチャイナ・タウンに向かう道でふと右手に目を遣ると、宵闇迫る南の空に上弦の月がぽっかりと浮かんでいた。

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