断層2

 唐変木といえば、ちょっと不思議な木の話をしよう。
 昭和59年に選定された「かながわの名木100選」というのがある。県内の簡単なハイキングコースなどを歩いているとたまに遭遇する古木である。子供の頃から歩き慣れた「神武寺・鷹取山ハイキングコース」を歩いて、ある11月、荘厳な神武寺境内・薬師堂の門を潜った。鬱蒼とした森の中に幹の周囲4メートルもある「神武寺のなんじゃもんじゃ」を見つけたのは、その名木100選の銘板によるものである。
 ヨーロッパでは自生するオリーブの木を普通によく見ることがある。ふと足元に目を遣ると、そのオリーブによく似た小ぶりの実が沢山落ちている。ひとつ取り上げて爪で傷つけてみると、じんわりと脂のようなものが滲んでくる。常緑の葉を見ると、細長い卵型をしているので、これはてっきりオリーブだと思い込んでしまった。樹齢は400年と銘板は言う。それこそ種子島に鉄砲とともにもたらされたものだろうか。しかし、何故関東のこんな山の頂きに?
 しばらく、頭の中でポルトガル人が神武寺の森にオリーブを植える光景を想像しながら自分なりの歴史物語に興奮していたが、やがてこれが誤解であることが分かる。調べてみると銘板にある「ホルトノキ」というのはインドシナから台湾、日本に自生するもので、オリーブとは異なる「目」に属する。もともとポルトガル原産と勘違いされ「ホルトノキ」と名付けられた、あるいは江戸時代にホルト油(オリーブ油のこと)の採れる木と誤解されたことによる、とある。つまり、私も近世人と同じ幻想を抱いていたことになる。
 因みに、「なんじゃもんじゃ」も得体の知れない木につけられたものだが、一般的にはヒトツバタゴという全く異種の木を指すらしい。唐変木の面目躍如であろうか。

  生まれは甲州鶯宿峠に立っているなんじゃもんじゃの股からですよ  山崎方代
神武寺境内にある「なんじゃもんじゃの木」
オリーブに似た卵型の実が落ちている。爪で傷つけてみると脂が沁み出てくる。
「かながわ名木100選」の銘板。
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